はじめに
会社売却(M&A)の交渉を進め、買い手から希望に近い金額を提示されると、
「この金額で会社を売却できそうだ」
と期待する経営者も多いでしょう。
しかし、M&Aでは最初に提示された金額が、そのまま最終的な株式譲渡価格になるとは限りません。
基本合意後などに実施されるデューデリジェンスによって会社の詳しい状況が確認され、その結果をもとに買い手から価格の見直しを求められることがあります。
例えば、
「想定していた利益より実態利益が少なかった」
「回収できない可能性のある売掛金が見つかった」
「将来発生する可能性のある債務が判明した」
といったケースです。
今回は、M&Aの途中で売却価格が下がる代表的な理由と、売り手が事前にできる対策についてわかりやすく解説します。
最初に提示された金額は確定価格とは限らない
M&Aでは、買い手候補から意向表明書などによって買収希望価格が提示されることがあります。
また、基本合意の段階で想定する株式譲渡価格について合意するケースもあります。
ただし、この段階では買い手が対象会社のすべてを詳細に確認できているとは限りません。
その後、
財務
税務
法務
労務
事業
などについてデューデリジェンスを行い、会社の実態を詳しく確認していきます。
その結果、当初の想定と異なる事実が判明すれば、買い手が価格の見直しを求めることがあります。
理由① 実態の利益が想定より少なかった
会社の企業価値を考えるうえで、利益は重要な要素の一つです。
しかし、決算書に記載されている利益と、買い手がM&Aの評価で考える利益が必ず一致するとは限りません。
例えば、
一時的な売上が含まれている
継続しない収益がある
本来必要な費用が計上されていない
売却後に追加で必要になる人件費がある
といった事情が判明することがあります。
買い手が想定していた収益力より実態が低いと判断すれば、企業価値の見直しにつながる可能性があります。
理由② 売掛金の回収に問題が見つかった
決算書上では資産として計上されている売掛金でも、
必ず全額を回収できるとは限りません。
例えば、
長期間入金されていない売掛金や、
取引先の経営状態が悪化している債権が含まれていることがあります。
1,000万円の売掛金が計上されていても、そのうち数百万円について回収が難しいと判断されれば、
買い手が考えていた会社の実質的な価値と差が生じます。
その結果、売却価格について再交渉される可能性があります。
理由③ 在庫の価値が想定より低かった
在庫を多く保有する会社では、
在庫の実態もデューデリジェンスで確認されるポイントになります。
例えば、
何年も販売されていない商品
古くなった商品
販売できない在庫
帳簿上は存在するものの実際には確認できない在庫
などが含まれている可能性があります。
帳簿上では1,000万円の在庫があっても、
実際に販売可能な価値がそれより低いと判断されれば、価格交渉に影響することがあります。
理由④ 未払い債務が見つかった
売却価格に影響しやすいものの一つが、
会社の債務です。
特に注意したいのが、帳簿だけでは分かりにくい債務や将来的な支払いリスクです。
例えば、
未払い残業代
未計上の仕入代金
税金の未払い
取引先への損害賠償リスク
などが判明する場合があります。
買い手からすると、
会社を取得した後に追加の支払いが発生する可能性があるため、そのリスクを価格に反映したいと考えることがあります。
理由⑤ 大口顧客との取引継続に不安がある
売上が順調な会社でも、
特定の顧客への依存度が非常に高い場合には注意が必要です。
例えば、
年間売上1億円の会社で、
特定の1社だけで5,000万円の売上を占めているとします。
現在は利益が出ていても、
その顧客との取引が終了すれば売上が大きく減少する可能性があります。
さらにデューデリジェンスの過程で、
契約期間が短い
契約更新の保証がない
社長個人の関係で取引が続いている
といった事情が判明すれば、買い手が事業リスクを高く評価する可能性があります。
理由⑥ 重要な社員が退職する可能性がある
会社の価値は、
設備や預金だけで決まるわけではありません。
従業員が持っている技術や営業力、顧客との関係なども事業を継続するうえで重要です。
特に、
トップ営業担当者
技術責任者
工場長
店舗責任者
など、特定の社員が事業運営に大きな役割を持っている会社では、
その人物がM&A後も残るかどうかが重要になることがあります。
買収後にキーマンが退職する可能性が高いと判断されれば、買い手が当初の評価を見直すことも考えられます。
理由⑦ 売却交渉中に業績が悪化した
M&Aは、
買い手候補が見つかってからクロージングまで数か月以上かかることがあります。
その間も会社の経営は続きます。
例えば、
基本合意時点では月商3,000万円だったものの、
その後、月商2,000万円まで減少したとします。
このような大きな業績変化があれば、
買い手が、
「当初の企業価値を維持しているとは言えない」
と判断する可能性があります。
そのため、M&Aの交渉が進んでいても、通常どおり会社の業績を維持することが重要です。
減額を提示されたら必ず受け入れる必要はある?
買い手から、
「デューデリジェンスの結果、売却価格を1億円から8,000万円に変更したい」
と言われたとしても、
売り手が必ずその条件を受け入れなければならないわけではありません。
まず確認したいのは、
「なぜ2,000万円下がるのか」
という根拠です。
例えば、
500万円程度の問題が見つかったにもかかわらず、
2,000万円の減額を求められているのであれば、
その計算根拠について確認する必要があります。
M&Aでは、
問題が見つかったことと、
その問題によって企業価値がどの程度変わるのかは分けて考えることが重要です。
減額ではなく契約条件で調整する場合もある
デューデリジェンスでリスクが見つかった場合でも、
必ず売却価格そのものを下げるとは限りません。
案件によっては、
契約上の補償
表明保証
支払い条件
アーンアウト
その他の条件
などによってリスクを調整することも考えられます。
例えば、
将来の業績について売り手と買い手の見方が違う場合には、
一定の条件を達成した場合に追加代金を支払う仕組みを検討することもあります。
重要なのは、
「問題が見つかった=そのまま値下げ」
と単純に考えないことです。
売却直前に問題を隠すのは逆効果
少しでも高く会社を売りたいからといって、
会社にとって不利な情報を隠すことはおすすめできません。
デューデリジェンスで後から問題が発覚すれば、
問題そのものだけではなく、
「なぜ事前に説明しなかったのか」
という買い手からの不信感につながる可能性があります。
場合によっては、
価格の減額だけでなくM&Aそのものが中止になることも考えられます。
問題がある場合には、
事前に仲介会社や専門家へ相談し、
どのように買い手へ開示するか整理しておきましょう。
会社売却前にできる対策
M&Aで想定外の減額を避けるためには、
買い手のデューデリジェンスが始まってから対応するのではなく、
売却活動を始める前に会社の状態を確認しておくことが重要です。
例えば、
決算書と実態に大きな差がないか
長期滞留している売掛金がないか
不良在庫がないか
未払い債務がないか
重要な契約書が揃っているか
労務問題がないか
主要顧客との取引状況は安定しているか
などを確認しておきます。
事前に問題が分かれば、
売却活動を始める前に改善できる可能性があります。
また、改善できない問題についても、
最初から買い手へ説明できる状態にしておくことで、
後から突然問題が発覚するリスクを減らせます。
「提示価格」ではなく「最終的に受け取れる金額」を見る
会社売却では、
最初に提示された金額だけで買い手を判断しないことも重要です。
例えば、
A社:1億円を提示
B社:9,000万円を提示
だったとしても、
必ずA社の条件が良いとは限りません。
デューデリジェンス後の価格調整や、
アーンアウト、
売却後の引継ぎ、
表明保証、
その他の契約条件などによって、
最終的な条件は変わります。
会社売却では、
最初の提示価格だけではなく、
最終的にどのような条件で、いくら受け取れるのかを確認することが大切です。
まとめ
M&Aでは、
最初に買い手から提示された価格がそのまま最終的な売却価格になるとは限りません。
デューデリジェンスによって、
実態利益
売掛金
在庫
未払い債務
顧客依存
キーマン
業績変化
などの問題が判明すると、
買い手から価格の見直しを求められる可能性があります。
ただし、
買い手から減額を提示されたからといって、その金額をそのまま受け入れる必要があるとは限りません。
重要なのは、
「なぜ減額するのか」
「その問題によって企業価値がどの程度変わるのか」
という根拠を確認することです。
そして、
想定外の価格変更をできるだけ防ぐためには、
会社売却を始める前に自社の財務・税務・法務・労務などを整理しておくことが重要です。
会社を高く売ることだけでなく、
「デューデリジェンス後も評価が下がりにくい会社にしておく」
という視点で準備を進めましょう。
会社売却を検討している方へ
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