はじめに
会社売却(M&A)を検討している経営者の中には、
「売上の半分以上が1社からだけど、会社を売却できる?」
「特定の大手企業との取引で成長してきた会社は評価が下がる?」
「主要顧客との関係が社長個人に依存しているけれど大丈夫?」
と不安に感じる方もいるでしょう。
売上や利益が好調な会社であっても、特定の顧客への依存度が高い場合、買い手からリスクとして確認されることがあります。
これが「顧客集中リスク」です。
ただし、大口顧客への依存度が高いからといって、会社を売却できないわけではありません。
重要なのは、
「なぜその顧客との取引が続いているのか」
「M&A後も取引が継続する可能性が高いのか」
を買い手が判断できる状態にしておくことです。
今回は、大口顧客への依存がM&Aでどのように評価されるのか、売却前にできる対策とあわせて解説します。
顧客集中リスクとは?
顧客集中リスクとは、
特定の顧客や少数の顧客が会社の売上・利益の大部分を占めている状態から生じるリスクです。
例えば、年間売上1億円の会社について、
A社:5,000万円
B社:1,500万円
その他:3,500万円
という売上構成だったとします。
この場合、最大顧客であるA社だけで売上全体の50%を占めています。
現在A社との取引が順調であれば、会社の業績に問題はないかもしれません。
しかし、A社との取引が終了すると、単純計算では売上の半分を失う可能性があります。
買い手はM&A後も安定して事業を継続できるかを考えるため、このような顧客構成を確認します。
大口顧客がいること自体が悪いわけではない
ここで注意したいのは、
「大口顧客がいる=会社の評価が低い」
とは限らないことです。
むしろ、有名企業や業界大手と長期間取引していることが、その会社の信用力や技術力を示しているケースもあります。
例えば、
10年以上取引が継続している
毎年安定した発注がある
他社への切り替えが簡単ではない
自社独自の技術やサービスが採用されている
複数部署と取引している
といった状況であれば、
大口顧客との取引そのものが会社の強みとして評価される可能性があります。
問題になるのは、
「その取引がM&A後も続くのか分からない」
という不確実性が大きい場合です。
買い手は「売上の割合」だけを見ているわけではない
顧客集中リスクを確認するとき、
買い手が見るのは単純な売上比率だけではありません。
例えば、
大口顧客との取引年数
過去数年間の売上推移
契約期間
契約更新の条件
解約条件
取引開始の経緯
競合への切り替えやすさ
利益率
担当者との関係
なども確認されることがあります。
同じ「売上の50%を1社に依存している会社」でも、
毎年契約が変わる会社と、長年継続して取引している会社ではリスクの見え方が異なります。
社長個人の人間関係で取引している場合は注意
特に注意したいのが、
大口顧客との関係が社長個人に依存しているケースです。
例えば、
「取引先の社長とは学生時代からの知り合い」
「営業担当者を介さず、すべて社長同士で商談している」
「契約書はなく、長年の信頼関係だけで発注を受けている」
という会社です。
買い手からすると、
会社を買収した後に旧社長が退任すると、
その取引まで終了してしまうのではないかという不安があります。
売上比率の高さだけでなく、
「会社と会社の取引なのか、それとも社長と顧客の個人的な関係なのか」
という点も重要になります。
契約書があるか確認しておこう
大口顧客との契約については、
会社売却を始める前に契約書を確認しておくことも重要です。
特に、
契約期間
更新条件
解約条件
M&Aによって契約に影響が生じる条項の有無
などを確認します。
長年取引している企業では、
「昔から付き合っているので契約書を確認したことがない」
というケースもあります。
M&Aを検討するのであれば、
主要な取引先について現在どのような契約になっているのか整理しておきましょう。
M&Aを取引先へいつ伝えるかも重要
大口顧客がいる会社では、
「M&Aについて取引先へいつ説明するのか」
も重要な問題になります。
会社売却を検討し始めた段階で、
経営者が独断で大口顧客へ伝えることは慎重に考える必要があります。
まだM&Aが成立していない段階で情報が広がれば、
取引先だけでなく従業員や仕入先へ情報が伝わる可能性があるためです。
一方で、M&A後も取引を継続してもらうために、
適切なタイミングで買い手を紹介した方がよいケースもあります。
誰が、
いつ、
どのように説明するのかについて、
買い手やM&A仲介会社などと事前に相談しておくことが重要です。
売却前に顧客を分散した方がいい?
顧客集中リスクを減らす方法として、
新規顧客を増やし、特定顧客への依存度を下げることが考えられます。
例えば、
現在、
A社:売上50%
その他:売上50%
だった会社が、新規顧客を増やすことで、
A社:売上30%
その他:売上70%
となれば、A社との取引が終了した場合の影響を相対的に小さくできます。
ただし、
M&A直前に無理に売上構成を変える必要があるとは限りません。
大口顧客との取引が安定しており、高い利益を生み出しているのであれば、それ自体が会社の強みである可能性もあります。
重要なのは、
「大口顧客がいること」
ではなく、
「その顧客を失った場合に会社がどうなるのか」
というリスクを把握しておくことです。
大口顧客との関係を「社長」から「会社」へ移す
会社売却を数年後に考えているのであれば、
大口顧客との関係を組織化しておくことも有効です。
例えば、
社長だけで顧客対応をしない
営業責任者も商談に参加する
複数の担当者が取引先と接点を持つ
取引内容を社内で共有する
契約や商談履歴を記録する
といった取り組みです。
こうすることで、
社長が会社から離れても顧客との関係を維持しやすくなります。
M&Aだけでなく、事業承継という意味でも重要な取り組みです。
顧客別の売上資料を整理しておこう
会社売却を検討するのであれば、
顧客ごとの売上状況を説明できるようにしておくとよいでしょう。
例えば、
過去3~5年程度について、
顧客別売上高
売上構成比
粗利益
取引開始時期
契約状況
などを整理します。
大口顧客への依存度が高かったとしても、
「10年間継続しており、毎年安定して発注されている」
という事実を資料で示せれば、
買い手も取引の安定性を判断しやすくなります。
逆に、
売上の大部分を占める顧客について経営者自身が詳しい数字を把握していない状態では、
買い手がリスクを判断しにくくなります。
大口顧客依存があっても売却できる
大口顧客への依存度が高いという理由だけで、
会社売却を諦める必要はありません。
重要なのは、
なぜ取引が続いているのか
どのくらい継続しているのか
M&A後も継続できる可能性があるのか
社長が退任しても関係を維持できるのか
といった点を説明できることです。
また、買い手によっては、
その大口顧客との取引自体に大きな魅力を感じる場合もあります。
例えば、
買い手がこれまで取引できなかった業界や企業との販売チャネルを獲得できるのであれば、
M&Aによるシナジーとして評価される可能性があります。
まとめ
会社売却では、
売上や利益だけでなく「どの顧客から売上が発生しているのか」も重要です。
特定の大口顧客への売上依存度が高い場合、
買い手は、
その顧客との取引が終了したらどうなるのか
M&A後も取引が続くのか
旧経営者が退任しても関係を維持できるのか
などを確認します。
一方で、
大口顧客がいること自体が必ずマイナス評価になるわけではありません。
長期間安定した取引が続いていたり、
競合他社が簡単に代替できない商品・サービスを提供していたりする場合には、
会社の強みとして評価される可能性もあります。
将来的に会社売却を考えているのであれば、
顧客別の売上を把握するとともに、
大口顧客との関係を社長個人ではなく会社全体で維持できる状態へ変えていくことが重要です。
「売上がいくらあるか」だけではなく、
「その売上が今後も続く理由を説明できるか」
という視点で会社を整理しておきましょう。
会社売却を検討している方へ
「今、自社を売却するとしたらいくらくらいになる?」
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